Paul Turek先生のFNA Mappingの講演が神戸でありました
去る6月16日土曜日に神戸市で行われた日本アンドロロジー学会総会で、米国からPaul Turek先生をお招きして、FNA Mappingのご講演をしていただきました。タイトルはFinding sperm in Nonobstructive Azoospermia: Mapping vs Microdissection(非閉塞性無精子症からの精子発見:マッピングかそれとも顕微鏡下精巣精子採取術か)という題名でした。昨年仙台でのTurek先生のご講演を聴かれた今年の日本アンドロロジー学会大会長である兵庫医科大学柴原浩章教授がmicro TESEの現状を打開すべくTurek先生に依頼され、日本での再度ご講演の実現となりました。
これまでもFNA Mappingによりmicro TESEでの精子回収不可症例からでも精子回収が可能となり、特にmicro TESEで死角となりやすい精巣切開線から離れた辺縁領域に精子が見つかりやすいことなどが示されましたが、今回はさらに一般的に行なわれているmicro TESE術後に多くの症例で男性ホルモン低下が起こり、精子回収不可であったショックと重なって精神的にも肉体的にも立ち直れていない患者さんがおられる事実が伝えられました。
ご講演後は関西の大手施設で行われた両側精巣に対するmicro TESEで精子回収できなかったケースに対して仙台でFNA Mappingを実施して多数の精子を確認しえた症例の染色結果を一緒にご確認いただき、トレーニングの成果が出たと大変褒めていただきました。その後大阪でmicro TESEを多数実施している増田裕医師を交えてTurek先生ご一家とお寿司を食べに行きました。
Turek先生は米国の名門イェール大学を卒業後名門スタンフォード大学医学部を卒業され、その後カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校泌尿器科の主任教授となられたものの、男性不妊のプライベートクリニックをサンフランシスコのフィッシャーマンズワーフとロサンジェルスのビバリーヒルズに設立された世界的名医です。こうした名声とは別に大変フレンドリーなお人柄で終始ユーモアとウィットに富んだ会話で場が和みました。Turek先生によると米国と英国ではmicro TESEを受けた後に男性ホルモン低下から男性ホルモン補充が生涯必要となった患者団体から集団訴訟が起こっている話を伺いました。ただmicro TESEを多数行ってきた体外受精施設では資金力と政治力で火消しに躍起となっており、日本も今後同じようになるのではないかと気にされておりました。
micro TESEの問題は精子回収率が30%にも満たない状況で、両側精巣を切開され多数の組織が採取され、手術後男性ホルモン低下が高い確率で起きていることです。他院でmicro TESEを受けた後FNA Mappingを希望されて当院を受診される方々の男性ホルモン値を測定してみると、ほぼ例外なく手術前の半分くらいまで低下していることが明らかとなりました。日本は世界で一番人口当たりの体外受精施設数が多く、体外受精の採卵サイクル数も多いことが知られており、その結果無精子症に対するmicro TESEは施設間での競合的戦略として利用されている傾向があり、特に婦人科医師がmicro TESEを実施している実態は米国ではありえないことだとTurek先生は述べておられました。
一方で FNA Mappingはmicro TESEを決して否定するものではありません。FNA Mappingの意義は精子がいない精巣に対して無用に両側を切開してしまうリスクを避け得ること、精子がいるとわかっている精巣の方だけを切開できること、精子の存在部位や広がりをあらかじめ把握してから適切な術式を選択でき、FNA Mappingで精子が確認された後のmicro TESEでは90%以上の症例で精子が回収できるようになることです。
そしてこれは誰もが否定できない事実ですが、micro TESEを受けて後悔している患者さんは多数いらっしゃいますが、FNA Mappingを受けて後悔している患者さんはこれまでおられません。当院ではFNA Mappingをmicro TESEと並べて標準術式として今後実施していきます。