パイプカットとは?
パイプカットという手術は、精管を縛ることにより睾丸から精子が精液の中に送り出されるのを防ぐ、男性が受ける避妊手術です。実際のパイプカットでは陰嚢に局所麻酔をした後、1cmほどの小切開をメスで入れて、精管を糸で縛って切断します。ノンスカルペル(NSV)というメスを使用しない方法もありますが、実のところ狭い術野に加えて操作性が悪いという欠点があり、かえって手術時間が長くなったりと術者によって温度差があるように見受けられます。また精管を引きちぎってしまったりと愛護的に精管を扱わない傾向があり、精管をパイプカット後に再婚などの理由で顕微鏡手術で吻合する際にそうした手術の不手際の跡が時折見受けられます。パイプカットを実施するにあたっては、精管を単に縛って切断するだけでは無く、精管が自然に再疎通することがないよう、より手の込んだ工夫を取り入れることが望ましく、また精管には大事な動脈や神経が伴走しており、顕微鏡手術で吻合手術をする経験がある術者は原則こうした大事な構造物は温存するパイプカットを行うことができます。したがってパイプカットを実施する術者は必要があれば顕微鏡手術で再吻合ができる医師が実施することが理想と言えます。通常の小切開手術は熟練した術者が行えば短時間で済み、術後の傷跡はほとんどわからなくなるため、ノンスカルペル(NSV)に対してのデメリットは事実上無く、結局はメスを使うかどうかということではなく、執刀医に基本的な技量が備わっているかどうかがより結果を左右すると言って間違いないでしょう。そして術後の2ヶ月の精液検査で遠心後の沈渣全視野において不動精子すら全く見られない水準をこの手術の標準とすべきです。
手術を受けようと考えている患者さんへ
世の中には様々な避妊法があります。コンドームは避妊率が低く、ピルは副作用の懸念があります。女性の避妊法として卵管結紮術がありますが、男性の手術は女性と比べて負担が少ないと言えます。
男性不妊の顕微鏡手術が2022年4月より健康保険適応となり、現在当院での手術待機者数が増加しており、妊娠を望まれる方々に対する手術を優先するため、当院でのパイプカット手術は当面の間見合わせます。手術をご希望の方は帝京大学医学部附属病院泌尿器科か東京日帰り手術クリニックの木村将貴医師にお問い合わせください。
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精管結紮術 |
卵管結紮術 |
手術部位 |
皮膚の下 |
お腹の中 |
手術時間 |
30分 |
1時間 |
入院 |
不必要 |
必要 |
麻酔 |
局所麻酔(小) |
腰椎・全身麻酔(大) |
身体への負担 |
殆ど無し |
大きい |
危険性 |
殆ど無し |
有り |
副作用 |
殆ど無し |
有り |
術後の苦痛 |
殆ど無し |
大きい |
手術前の注意点
当院ではまず初診時にご夫婦で受診していただくことを基本としています。その理由は、パイプカットは本来、家族計画のために行うもので、パートナー(奥様)の同意が必須であるからです。また、以下のことに留意していただく必要があります。
手術後に性欲がなくなったり、精液が出なくなったりするとお考えの方もいますが、それは正しくありません。パイプカットは精子の通り道を切断するだけで、精液そのものの通り道はそのままです。同様にホルモンバランスに影響を与えないため性欲がなくなることもないです。
パイプカット2週間後に傷の確認、1ヶ月後、2ヶ月後の精液検査が必要になります。基本的にパイプカットは永久避妊法ですが、術後の精液検査で精子が認められなくなっても、2000分の1の確率で自然妊娠の可能性があるとされているようです。しかしこうした自然妊娠のリスクには術者の力量次第で相当開きがあると言って間違い無いでしょう。
最後に
この手術を希望される方は必ずパートナーと相談して、双方の合意のもと施術を受けることを決めてください。