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一部医療機関による自院への誘因性を目的としたFNA Mappingに対する誤った情報発信にご注意ください

[2024.04.07]
 昨今、一部医療機関からFNA Mappingを評する内容を含む情報発信がホームページやブログでなされるようになりました。非閉塞性無精子症に対する様々な術式を挙げて、いかにも客観的な情報提供を提供しているように見せかけていますが、自院への誘因性を目的としているように見受けられます。これらのホームページやブログで共通して、紹介した各々の術式につき一定のメリットを認めるような論調にしつつ、読者が特定の(自院で実施できない)術式に対してネガティブな印象を持つような意図的な表現が組み込まれています。それでいながら自院で行なっている臨床試験(実験的医療)に対しては批判的な見地からのコメントは一切していない医療機関もあります。これは昨今トラブルの原因となっているダークパターンと同類の手口です。問題は自院で実施していない、つまり臨床的な経験の無い術式に対して、医師として十分に理解できていないにもかかわらず、一般の方々を読者としたサイトであたかも理解しているような語り口で評していることです。それではこうしたFNA Mappingに対する問題のある発信内容につき説明していきます。 1:(FNA Mappingが保険適応となっていないこと) 日本の保険診療は世界で最も優れた制度であり、医療者はそれを尊重して守っていかなくてはいけません。しかし高度に専門分化した医療分野では保険診療のみでは全ての患者さんを救済できない局面もあります。例えば無精子症に対するmicro TESEは2022年4月から保険適応となりましたが、2004年から2022年までは1500例以上の手術を自費で実施してました。精子獲得例の妊娠率及び生児獲得率は高く、2人目3人目の子供も得られており、その結果おそらくは1000人以上を思われる出産をもたらして来ました。もし保険診療しか行っていなかったら、こうした実績は残せませんでした。またmicro TESEは高度な技術と医療機器を必要とする手術にもかかわらず高度先進医療にはなっていませんでした。この高度先進医療にしても結局保険適応とならずに消滅するものが多々あり、必ずしも良い治療とは限りません。 2:(FNA Mappingが高額であると不適切に評されていること)  高額というのはあたかもバリューが低いという印象をもたらす効果を狙った表現です。何に対して高額なのかが示されていませんので、全くもって科学的な見解ではありません。まず保険適応となっているmicro TESEを大学病院で全身麻酔で2泊3日で行った場合の医療費総額は約85万円となります。したがって当院で行なっているFNA Mappingよりも高額になります。米国内ではFNA Mappingは6000米ドルに設定されており、米国で最も優れた実績を誇る施設でmicro TESEを受けた場合の医療費が20000米ドル〜30000ドルですから、精子が存在しない半数以上の患者さんにとって大きな負担軽減となります。またFNA Mappingでは左右で合計36箇所の標本を作成し、1箇所のスライドを30分以上かけて検鏡して診断します。これを2名でダブルチェックするので、延べ検索時間は36時間ほどになります。またこれらの診断を正確に行うためには、細胞検査士と胚培養士の双方で実績がある資質に優れた優秀な技師がThe Turek Clinicが指定するプログラムでトレーニングを終了する必要があり、現在日本でクリアできた人材は2名しかいません。すなわち大谷選手のような二刀流でないと務まりません。一方でmicro TESEで採取した組織は精子を生きた状態で凍結する必要があるため、修学中(見習い)の胚培養士を含めて通常延べ数時間の検索しか行われず、精子が無いと判断されれば、全ての検体は廃棄処分となるため、何ら客観的なデータが残らないことになります。 3:(FNA Mapping実施にライセンスが要求されていること) 保険診療とはどこで誰が受けても結果は同じであるという前提に基づいていますが、残念ながらmicro TESEは保険適応以来、温度差が大きい手術になってしまいました。その理由として術者の教育体制や認定制度が存在しないことが挙げられます。また経験値の差が手術結果に反映されると報告されています。FNA Mappingはそうした事態をあらかじめ予測した当時UCSF泌尿器科主任教授であったPaul Turek先生がFNA Mappingのプログラムと術者に対する(実施施設に対するではない)認証制度を考案しました。ちなみに精巣内の造精機能が不均一であることを世界で初めて証明したのがFNA Mappingで、それにヒントを得てその2年後の1999年にmicro TESEが論文に発表されましたが、その後温度差の大きいmicro TESEが世界的に広がり、現在の反省に至る結果となりました。 4:(進化し続けるFNA Mappingに対する誤った認識) FNA Mappingは1997年に初めて世界に論文で公表されました。この事実をいかにも古い術式で、さらに初期の頃のデータを持ち出して期待より低い臨床成績であるかのような印象をもたらす効果を狙って記載している記事があります。そうした記事では針であたりをつけるとか、針で探るというような、揶揄的な表現が採られてます。FNA Mappingは発表されて27年の年月を経ましたが、限界と綻びが見えてきたmicro TESEに対する見直しとともに存在意義は増しています。その証拠として実際施術を受けられた患者さんがSNSを通じて情報発信をされ、その結果2022年以降主要学会等で6回もの講演を依頼され、今年も依頼を受けてます。技術力や経験値も増しており、FNA Mappingの結果、成熟精子が確認された患者さんのmicro TESEでの精子回収は日本国内では全例で達成しています。また片方の精巣の切開のみで済み、皮膚切開から精子回収までの手術時間の中央値は23分と短く、さらに非閉塞性無精子症の中で最も重症とされるセルトリオンリー症候群(ジョンセンスコア2)の患者さんの中には切開なしのFNAで、運動精子を回収してICSIの結果妊娠した方も出てきています。 5:(FNA Mappingが動脈損傷を起こすリスクが高いとする誤謬) FNA Mappingにヒントを得て、micro TESEと同時に針での穿刺を行う臨床試験(実験的医療)の結果報告があるようです。実は以前当院でもmicro TESE同時mappingを行っていた時期がありますが、現在では行っておりません。まず報告された方法では直接的に精子回収を目的とした穿刺のため、用いる針は18Gという極めて太い針となり、外径は1.3mmです。一方でFNA Mappingでは精子検出のみを目指すため23Gという細い針を用い、外径0.6mmとなります。精巣内の動脈(栄養血管)は針が太いほど損傷リスクは大きくなります。東北大学病院在任中、癌患者さんの経皮的後腹膜リンパ節吸引生検という検査がありましたが、この際使用していたのが同じ太さの23Gでした。この太さの針の場合、後日開腹手術を行なっても血腫は見当たらず、血管に針が当たっても血管がずれて損傷が起こりにくいと考えられてました。FNA Mapping後にmicro TESEを行った際も血管損傷の痕跡が観察されたことはありません。FNA Mappingでは皮膚も精巣白膜も一切切開せずに精子存在部位を高い感度で同定できますが、その他の方法ではいずれも多くは両側精巣の切開を必然的に伴います。日本人は欧米人に比較して人種の差から精子回収率は低く、原因不明の無精子症にmicro TESE単独で行なった場合は両側精巣を切開しても精子回収率は23%程度であることが、実績が豊富な生殖医療専門医かつ泌尿器科専門医の間ではコンセンサスになっています。先に触れたmicro TESEと同時に針での穿刺を行う試験的医療では、大半の症例に対して結果的に侵襲を伴う無益な切開を両側精巣にしなければいけなくなります。 当院ではこれまで多くの生殖医療専門医、泌尿器科専門医の見学を受け入れてきました。見学をされた先生方からはFNA Mapping を自身で実施してなくてもよく理解されており、希望された患者さんがおられればmicro TESEをせずに紹介してくれます。昨年秋に東北大学医学部長石井直人先生、仙台厚生病院病理部長兼東北大学医学部教授遠藤希之先生及び衆議院議員岡本章子先生にクリニックにおいでいただき、FNA Mappingの講演を聴いていただきました。2004年に東日本で初めてmicro TESEを行なった頃はまだmicro TESEの術式名すら医療関係者の間でも知られていない時代でした。今度はFNA MappingのTrailblazerとして険しい道のりはまだまだ続きます。

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