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FNA Mappingとは?

FNA Mappingとmicrodissection TESEの特徴とは?

ーご注意くださいー FNA MappingはFNAとは全く異なる手技です。FNAは単一箇所あるいはランダムに数カ所穿刺して組織を採取する手法で主に閉塞性無精子症を事前に確認する手法です。FNA Mappingは専用のdeviceを用いて系統的に両側精巣の全体からくまなくサンプリングする手法で主に非閉塞性無精子症に対して、micro TESEの後遺症を回避して精子の検出率を高めることを目的としています。FNA Mappingを行うためには米国アンドロロジー学会前会長UCSF泌尿器科前教授のDr. Turekの指導のもとでの3年間の修練と認証が義務付けられています。

図1

 FNA Mappingは精巣内の精子の有無および存在部位につき精巣を切開することなく明らかとする術式で、米国の泌尿器科医師Paul Turek医師により1997年に発表されました。それまでは精巣生検という1ヶ所の組織を採取して診断することが一般的でしたが、FNA Mappingによって精巣内の大部分で精子が造られていなくても局所的に造られている患者さんが少なからずおられることが世界で初めて証明され、それをヒントに後にmicrodissection TESEが考案されることになりました。Turek医師は米国名門エール大学及びスタンフォード大学医学部の卒業生で、米国カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校泌尿器科学講座の主任教授、米国アンドロロジー学会会長を歴任された、米国を代表する著名な泌尿器科医師です。現在はサンフランシスコフィッシャーマンズワーフにプライベートクリニックであるThe Turek Clinicを開設され、男性不妊を専門に診療されています。

図2

 一方現在本邦で広く実施されているmicrodissection TESEは精巣を切開して手術用顕微鏡を用いて精巣内の精子を広く検証する術式で、FNA Mappingのデータにヒントを得たニューヨークのコーネル大学の泌尿器科教授Peter Schlegel医師により1999年に発表されました。microdissection TESEは精子形成部位が切開ラインに近い場合は精子をダイレクトに採取でき、すぐに顕微授精に使用できるメリットがあるため、産婦人科が主導権を握る体外受精施設を中心に普及しましたが、精子形成部位が存在しない半数以上のケースで両側精巣を切開しなければならず、しかも見落としを少なくするためには切開ラインから離れた深い部位まで組織を採取しながらランダムに掘っていかなくてはならず、精巣へのダメージが大きくなって男性ホルモンが低下して回復しなくなる後遺症が昨今問題視されるようになりました(図1)。また精子を作っている場所が切開ラインから遠いあるいは深い部位だとmicrodissection TESEを実施しても精子の見逃しになる率が29%になることが2018年国際的な論文に発表され注目されるに至りました(図2)。

図3

  microdissection TESEでは精巣を横切開か縦切開する方法がありますが、どちらの切開ラインでも精巣全体をくまなく検索することは不可能です。図3にmicrodissection TESEの横切開のシェーマが描かれていますが、精巣の上極(頭側)と下極(脚側)はほとんど検索できず、 無理に検索しようとすれば精巣へのダメージはより深刻になります。同様に縦切開では精巣の外側と内側はほとんど検索できず、 無理に検索しようとすればやはり精巣へのダメージはより深刻になります。

例えばAさんのケースではmicrodissection TESEで精巣を縦切開あるいは横切開しても精子が見逃しになる危険性がありますが、FNA Mappingを行えば精子の存在部位を切開前に明らかにすることができます(図4ー1〜4)。

図4-1

図4-2

図4-3

図4-4

   Bさんの場合はmicrodissection TESEで精巣を縦切開したら少数精子を確認できる可能性があるものの、横切開をしていたら精子は見逃してしまう危険性があります。しかしFNA Mappingを行えば精子の存在部位を切開前に明らかにすることができます(図5−1〜4)。

図5-1

図5-2

図5-3

図5-4

そしてAさんでもBさんでもFNA Mappingをあらかじめ行うことによりその精子の存在部位に合わせた小切開のもとでmicrodissection TESEを実施することにより、より低侵襲でかつより高い確率で十分量の精子を回収できるようになります(図6)。

図6

 片方の精巣でしか精子が存在しない方は精子の存在しない側の精巣は切開しなくて済み、両側精巣共に精子の存在しない無精子症の半数以上の方は精巣を切開しなくて済み、男性ホルモン低下による後遺症が発生して術後苦しむリスクは軽減します。さらに精子存在部位があらかじめ判れば、その部位に限って切開することにより精巣へのダメージをより少なくするのと同時に精子存在の見落としを極力少なくすることができます。尚、精子を継続的に造っている部位は楕円球体である精巣の3次元の座標(α,β,γ)上で固定されており、生涯にわたって移動することはありません(図7)。

図7

このようにmicrodissection TESEと異なりFNA Mappingでは採血で用いる針より細い針を用いて精巣全体からくまなくサンプリングを行うことができるため、精巣にダメージをほとんど与えずに精子の有無と場所を検証することができます。精子が造られている部位からは精細管をいう管の中を精子が濃度勾配を持って拡散しているため、その周辺を穿刺針が通過することにより、精子を検出できます(図8)。

図8

穿刺した標本はスメアという永久標本となりますので、十分な時間をかけて正確な診断が可能となり何回でも見直すことができます。図9は国内で多数のmicrodissection TESEを手掛けている大手の施設で両側精巣を切開されるも長時間の手術で精子が確認されなかったセルトリオンリーの患者さんのFNA Mapping36ヶ所より1ヶ所のみで精子が確認された標本です。改めてsalvage directed microdissection TESEを行ったところ、執刀開始後約20分で運動精子を回収して10本凍結でき、うち1本の融解のみで胚盤胞を多数凍結し、胚移植後妊娠されて出産されました。microdissection TESEでの不成功例に対してFNA Mappingを行った結果、29%で精子の見落としがあったことが報告されていますが、逆にFNA Mappingを行って精子が確認されていなかった症例にその後microdissection TESEを行っても1例たりとも精子回収例は報告されていません。理論的にも臨床データからもいかにFNA Mappingがmicrodissection TESEより精子検出感度が高いかが伺えます。またFNA Mapping単独に限らずmicrodissection TESEまで行った場合でも、片方の精巣をミニマムでしか切開及び組織採取をしないため、これまで有意に男性ホルモン低下をきたした患者さんはおられませんので、安全性の上でもFNA Mappingはより優れた手法となります。

図9

FNA Mappingをmicrodissection TESEに先立って行うことにより、

1)精巣へのダメージと男性更年期障害などの後遺症を少なくできる

2)精子の見落としを極力少なくできる

などのメリットがあり、無駄なmicrodissection TESEを無精子症の半数以上の方々が回避できることにより医療費削減効果があるとされております

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