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無精子症とは?

術後の後遺症と精子の見落としをできるだけ少なくするためにmicrodissection TESE(MD-TESE)を受ける前にFNA Mappingで精子の存在有無と精子が作られている場所を確認しておくことを勧めます。( FNA Mappingについては別途詳細な説明がありますのでご覧ください。)

 

無精子症は大きく2種類に分類されます。
しかしその区別は検査結果だけでは難しい場合もあり、男性不妊専門医(泌尿器科専門医かつ生殖医療専門医)による診断が必要です。

閉塞性無精子症 

精巣(睾丸)の中で精子は作られますが、途中の通り道が何らかの原因で閉塞を来していることから無精子症となったものを、閉塞性無精子症と呼びます。
広義には射精できないことによる無精液症も含めることがあります。

非閉塞性無精子症
 

先天性(染色体異常、遺伝子異常、原因不明など)あるいは後天的(抗癌剤治療、放射線治療、ムンプス精巣炎など)原因により、精巣(睾丸)で精子を作る能力が低下してしまったために無精子症になったものを、非閉塞性無精子症と呼びます。広義には時々ごく少数精子が精液中にあらわれる症例を含めることがあります。

非閉塞性無精子症に対して、日帰りで顕微鏡下精巣精子採取(microdissection TESE)を行っております。

顕微鏡下精巣精子採取術(microdissection TESE)の実際

生殖医療の進歩には目をみはるものがあります。20年ほど前は一部の方を除いて無精子症の方に父親と血縁関係のある子どもを授かることは不可能でした。
しかし1994年に世界で初めて精巣精子を用いた顕微授精の報告がされ、1999年には顕微鏡下精巣精子採取術が初めて報告されて以来、無精子症に対する治療の主流となっています。

精巣(睾丸)では限られた場所でしか精子を作成していないため、顕微鏡を使用した手術(顕微鏡下精巣精子採取術)による精子採取が必要になります。
顕微鏡を使用しないTESE或は検査を目的として精子採取を目的としない精巣生検は望ましくありません。顕微鏡下精巣精子採取術(microdissection TESE)の手術成績には高性能な手術用顕微鏡と術者の経験値が重要とされます。精巣(睾丸)から採取できた精子は、凍結保存してドライシップという輸送容器で全国に送ることができます。

奥様には後日、顕微授精の準備をしていただくことになり、既にかかっている婦人科施設で治療継続されるか、あるいはできるだけお住まいに近くて精巣精子を用いた顕微授精の実績のある診療施設をご紹介いたします。そこで奥様の卵を採取した当日に精子を解凍して使用することになります。

当院では局所麻酔で日帰り手術を行っています。術中無痛に徹しており、痛みで苦しむことはありません。他施設で精巣生検やTESEを受けられた際、死ぬほど痛かったという体験をされている方が時々おられますが、これは的確な麻酔がされていなかったためと思われます。

顕微鏡下精巣精子採取術では精子を作っている太く蛇行した精細管を特定して選択的に採取します。精子を作っていない場所でも男性ホルモンを作る大切な組織であり、そうしたところは極力傷つけません。また顕微鏡によりほとんど出血しないように血管の損傷をできるだけ避けることが可能ですので、術後の精巣萎縮や男性更年期症の発症リスクを減らすことができます。

手術では局所麻酔の注射をしたのち、陰のうに小切開を入れます。そこから精巣(睾丸)表面を出して手術用の顕微鏡をセッティングします。精子が存在しそうな部分があれば採取し、胚培養士に渡します。胚培養士は受け取った組織をその場で処理し、別の顕微鏡で詳細に精子を探します。この手術に特有の高度な技術が必要となるため、実績が有り熟練した胚培養士を起用しています。

十分量の精子が採取できれば、その時点で手術を終了します。片方の精巣で精子が見つからない場合、反対側も検索する場合がありますが、術中所見によっては初回は片方の精巣のみ検索し、救済ゴナドトロピン療法を実施することにより、その後射出精子を得ることがあります。クラインフェルター症候群以外の非閉塞性無精子症では反対側で初めて精子が見つかる確率は6%ですが、クラインフェルター症候群では13%となります。
手術時間は1時間から2時間くらいになります。

一方で、昨今microdissection TESEの普及に伴い、体外受精施設(ART施設)でmicrodissection TESEを受けられた方々の術後後遺症が問題視されるようになりました。体外受精施設(ART施設)でmicrodissection TESEを両側精巣に対して実施され精子が確認されず当院をセカンドオピニオン目的で訪れた方々の術後の男性ホルモン値(TESTO)を測定したところ、術前に比べて有意に低下しており、不適切な手術が行われている実態を昨年の生殖医学会総会で発表いたしました(下記左図参照)。中には更年期症状で苦しんでおられる方々も多く見受けられました。またmicrodissection TESEで両側精巣を切開したにもかかわらず精子が発見されなかった方々の29%で、FNA Mappingという手法で精子が確認されて多くの無精子症の方々が救済されている国際データも発表されました(下記右図参照)。したがって当院ではmicrodissection TESEに先立ちFNA Mappingを行う基本方針を採用しています。その結果以前よりmicrodissection TESEでより高い感度で精子を回収でき、男性ホルモンの低下や術後疼痛の軽減が可能となりました。こうした実績を学会報告した結果、2022年と2023年には日本生殖医学会総会、日本受精着床学会総会などでシンポジストや講演を行いました。そして他院で行われたmicrodissection TESE不成功例からもFNA Mappingによる救済例が続出していることより、全国から無精子症の方々が受診されるようになりました。

2004年から2017年までのFNA Mapping導入前のmicro TESEによる精子回収率を主な各因子別に過去実績で列挙しますと以下となります。FNA Mappingが積極的に導入された2018年以降では特にセルトリオンリー症候群において明らかな精子回収率の改善を認めています。

閉塞性無精子症                     

100%

非閉塞性無精子症(クラインフェルター症候群を除く)         

37%

クラインフェルター症候群(37歳以下)                        

47%

クラインフェルター症候群(38歳以上)                         

11%

セルトリセルオンリー症候群                                      

24%

分化停止                                                                

56%

精子低形成                                                             

100%

停留精巣固定術後                                                      

67%

過去の精液中に精子が存在した場合                                  

90%

縫合は体内で溶ける糸を使用し防水シールで消毒後密封しますので、抜糸や処置は必要ありません。したがって遠方の方でも安心して手術を受けていただくことができます。

*手術後の日常生活の注意点

手術終了翌日からほとんどのお仕事で復帰できます。一週間はスポーツを控えて下さい。入浴については術後1週間避けていただきますが、シャワーは問題ありません。飲酒も1週間お控え下さい。

*精子採取後の転帰

精子が回収された方のうち臨床妊娠に至った方は閉塞性無精子症で72%、非閉塞性無精子症で67%となっており、生児獲得率は各々89%、84%となっています。出生児体重中央値は各々3121g、3148gとなっています。

 

よくあるご質問

(質問)他の体外受精施設で精巣内精子は凍結しない方が成績が良いので採卵と同時にmicrodissection TESEを実施するよう勧められましたが、妥当な方法でしょうか?

(答え)
結論から言えばごく一部の特殊なケースを除いて妥当とは言えません。閉塞性無精子症では精子を凍結すること自体は全く問題ありませんので、あえて同時に実施する意味がありません。一方で非閉塞性無精子症ではmicrodissection TESEをしても本邦では平均精子回収率が30%に満たないことから、精子が回収されない場合は卵子を廃棄するか凍結するしかありません。しかしドナー精子を用いた顕微授精は学会では公式に認めていないため、凍結卵子はいずれ廃棄されるか延々と保管料を支払って延長するしかありません。これまで積み重ねてきた治療実績からは非閉塞性無精子症で最も重症であるセルトリオンリーでも凍結融解精子は全く問題なく妊娠と健常児出産をもたらしています。microdissection TESEと採卵を同時に行うと治療単価は最大となることから、microdissection TESE同時採卵は一部の施設では営利を目的として実施されている可能性があります。昨今、無精子症治療である精巣内精子採取手術と顕微授精が保険適応となってから、採卵と同時に精巣内精子採取手術を行うことで最も治療成績が良いと謳う施設が出現していますが、体外受精が自費診療だった時代に一等地に過大な設備投資をした体外受精施設では、体外受精が保険診療となって治療単価が大幅に下がってしまったことで、今更ながらTESE同時採卵(fredh TESE)を表に取り上げているのかもしれません。繰り返しますが、無精子症で精子回例例のほとんどを占めるセルトリオンリー症候群及び閉塞性無精子症で回収される精子は凍結しても全く問題にならないケースがほとんどです。実のところ2004年に東日本で初めてmicro TESEを執刀し始め、TESE同時採卵(fresh TESE)の成績を2006年に国内で初めて論文を出しましたが、その後優れた力量がある胚培養士がいる体外受精施設であれば精巣内精子を凍結しても何ら問題ないことがこれまで1500例以上執刀してきた結果から判明しています。TESE同時採卵(fresh TESE)は男性側も採卵日に手術日を合わせる必要があるため、予想された採卵日がずれても対応できるようにその前後にかけて仕事を休みにしておかなければならず、男性の手術日に無理に採卵を合わせると未熟卵が多くなって目標としていた成熟卵が得られないなど多くのデメリットが生じます。大きな規模の体外受精施設の場合、胚培養士がシフト制になっているため、常に力量の高い胚培養士が手術当日にあたるとは限りません。当院では仙台、関東、関西から胚培養士をクリニックに来てもらって精巣内精子採取手術を行なっています。そのため常に安定した治療実績を出すことが可能となっています。

(質問)男性不妊専門施設でmicrodissection TESEを受けても助成金制度を利用できるのでしょうか?

(答え)以前は助成金制度の書類は体外受精施設の主導権のもとでしか作成することができませんでしたが、不適切な microdissection TESEを行ったり、倫理上問題のある患者対応をした体外受精施設が出現し、その結果泌尿器科施設で書類が作成できるよう国の制度が改正され、当院は泌尿器科施設としては全国に先駆けて特定不妊治療支援事業認定施設となリました。一般的にmicrodissection TESE及び顕微授精の双方を実施する施設では治療費用がより高額に設定されていることがあり、その結果助成金受給のメリットは低減します。当院では過剰な広告を行わないことにより治療費用が妥当で、かつ優れた技術を有する体外受精施設と連携しており、治療を受けられるカップルのアドバンテージを尊重した方針を採っています。助成金制度につきましてはお住いの行政機関の窓口にご確認ください。尚、2022年4月からmicrodissection TESEが健康保険適応となりましたが、診療施設の立地条件から経営上保険点数で手術が賄えない施設では未だ自費診療で行われています。

(質問)microdissection TESEで精子が見つからなかったケースでもFNA Mappingで精子が確認されたと報告されています。FNA Mappingとmicrodissection TESEのどちらを先にすべきなのでしょうか?

(答え)以前タイでサッカー少年のチームが洞窟内に取り残されてレスキューされた事件がありました。犠牲者が一人出ましたが少年たちは全員救助されました。この際、とても長い洞窟内で少年たちが取り残された場所が最初から特定されていたため、最善の救助方法を考えて全員を助けだすことができました。この事例と同様に、精巣内のごく一部の場所でしか精子が造られていない非閉塞性無精子症においては、FNA Mappingで予め精巣のどこで精子が造られているかを特定してから、microdissection TESEで精巣を切開することで、精子をより高い精度で回収し、しかも精巣へのダメージを最も少なくすることが可能となります。一般的に行われているmicrodissection TESEでは、精巣のどこで精子が造られているか全くわからない状況で闇雲に精巣を掘っていかなければいけなく、精子回収の確率が低くなるばかりでなく、精巣へのダメージもより大きくなります。その結果、場合によっては男性ホルモンの低下による更年期症状などの後遺症を残すことがあります。したがって一般的にはFNA Mappingで精子存在有無と場所を確認してからmicrodissection TESEを含めた最適な手術手技を決定すべきと考えられます。しかし一部のケースでは最初からmicrodissection TESEを行うメリットが大きいと判断されるケースもあり、ケースバイケースと言えます。当院では病状によってはmicrodissection TESE同時FNA Mappingを実施しており、成果を上げています。こうしたなテーラーメイド治療を実践するには、的確な術前評価が必須となります。

最後に
 

この手術は訓練、経験を積んだ男性不妊専門医(泌尿器科専門医、生殖医療専門医)が行うことが望ましい一方で、男性不妊専門医が常勤で週6日勤務するのは東北6県では当院のみです。
頻回の通院は不要で、遠方の方でも治療できるよう体制を整えています。
また安全に妊娠出産に至るためにできるだけ奥様の年齢が若いうちに治療に入られることが望ましく、手術待ち期間を短縮できるよう手術枠を確保してあります。
microdissection TESEの実施にあたっては十分な顕微鏡手術のトレーニングを経て、かつ男性生殖器の解剖学と生理学そして病理学を修めた泌尿器科医師が執刀することが望まれますが、本邦では海外とは異なり、術者の顕微鏡手術のトレーニングがないまま、特に婦人科医師による執刀が行われており、術後の男性ホルモンの低下とともに十分なフォローアップがされていない問題が浮上しています。手術中及び手術後の痛みの程度も術者如何で大きく異なります。さらに最近になってmicrodissection TESEにより精子が見つけられなかったにもかかわらず、FNA Mappingという術式で精子回収が可能になったことが報告されて注目されています。FNA Mappingは精子の作られている部位を左右精巣、精巣の頭部、体部、尾部、外則、中央、内側のどこかを確認してからmicrodissection TESEを行うためのGPSの役割を果たします。FNA Mappingを行うことにより、精子が精巣内で全く造られていない方はmicrodissection TESEにより両側とも精巣が切開されずに済み、精子が存在している方では存在しない側の精巣を切開されずに済むなど、microdissection TESEやTESEの侵襲が大きく軽減されます。詳しくはサイドバナーからFNA Mapping、The Turek Clinicの解説(英文)をご覧ください。Dr. Turekによって考案された本術式を同博士の監修のもと実施しております。近年不適切なTESEやmicrodissection TESEが繰り返されて男性ホルモン低下をきたすことにより、更年期症状に苦しむ方が増加しています。無精子症或は精子が極めて少ないと診断されたら安易にTESEやmicrodissection TESEに進まないことをお勧めします。

 

こちらも合わせてお読みください。
FNA Mappingとmicrodissection TESEの特徴とは?へのリンク⇨ https://kanto-clinic.jp/what_FNA_Mapping

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