男性不妊専門施設の設立が望まれた理由
男性不妊治療は100年以上前から行われている精索静脈瘤手術を代表として歴史のある医学分野です。しかし卵巣刺激法、人工授精、体外受精、顕微授精の登場により、男性側に原因があっても女性の治療に主眼がおかれるようになりました。一方で顕微授精を代表とする高度生殖医療が登場して20年が経ちましたが、その成績に顕著な進歩は無く、未治療の男性不妊に対する高度生殖医療(アート:ART)の成績は極めて不良であることが今日判明しています(臨床泌尿器科2016年3月号:特集ART時代の男性不妊治療:巻頭言より抜粋)。一般的に高度生殖医療施設では凍結胚盤胞移植あたりの妊娠率を公表しておりますが、日本産婦人科学会が2013年の全国の高度生殖医療成績を集計した結果によると、体外受精を実施した採卵周期あたりの妊娠率は8.0%、顕微授精を実施した採卵周期あたりの妊娠率は5.7%となっており、胚発生不良のため胚盤胞移植に到達しない採卵周期数の多さを伺わせるとともに、一般的には知られていない高度生殖医療の厳しい現状が伺えます。さらに胚移植後に胎嚢が確認された段階で一般的には臨床妊娠と判定されていますが、その後の流産は25%以上と決して少なくありません。男性不妊治療は精子のDNA integrityを高めることにより、こうした流産を減少させ、健常児出生率を高めるものと期待されており、研究が進んでいます。さらには男性因子を治療して顕微受精をすることは、自然妊娠より発生頻度が高いと懸念されている顕微受精による児の先天奇形の発生率や将来の健康問題のリスクを軽減しうるものと予測されています。
また男性不妊診療は泌尿器科医の努力により、手術方法を始めとして著しい進歩を遂げました。かつて妊娠することが不可能であった無精子症に対しては顕微鏡下精巣精子採取術の登場により極めてチャレンジングなカップルであっても挙児の機会が与えられています。またかつて開腹手術や腹腔鏡手術で行われていた侵襲(体への負担やリスク)の大きかった精索静脈瘤手術はより根治性が高くて合併症が少なく、何よりも低侵襲で日帰りでできる顕微鏡下低位結紮術にとって代わられつつあります。
さらに不妊男性はさまざまな潜在的な健康上の問題を抱えている率やその後の悪性疾患、心血管疾患、代謝性疾患など様々な疾患の発病率が高いことが判明し、不妊治療にとどまらない男性側の統合的なケアの必要性が提唱されるに至りました。
これらの統合的アプローチにより男性の不妊因子のクリアランスに成功した場合、自然妊娠率が65%、人工授精或は高度生殖医療を併用して妊娠した率は16%、合計81%の患者で妊娠が成立したと米国男性不妊専門医療機関より権威ある国際学会ASRMで報告されております。したがってより自然に近い妊娠の成立とともに、必要に応じて併用する生殖補助医療の治療効果を上げるだけではなく、男性自身の健康寿命の回復を目指す意味で、昨今男性因子の治療の意義が急速に注目されています。
さらには男性不妊治療により自然な排卵で妊娠が可能となれば、生殖補助医療で完全には防ぐことができない過排卵による多胎妊娠と減数手術、体外受精に伴う余剰胚の廃棄などが回避され、男性不妊治療は倫理的な側面からも大きな意味を含有します。
男性不妊治療の必要性がメディア等でクローズアップされたことにより、高度生殖医療施設の中には男性不妊外来を設置しているところもあります。しかし高度生殖医療施設に従属した男性不妊外来では、高度生殖医療施設の方針によってはより自然な妊娠を目指した男性不妊診療を提供するのは難しいと言わざるを得ません。男女同時に検査治療できるという高度生殖医療施設のキャッチフレーズは一見理にかなっているように聞こえますが、高度生殖医療施設の性質上、結局はより治療単価の高い体外受精にステップアップさせたい思惑が存在しており、一方で高度生殖医療施設とは独立した男性不妊施設ではより自然な妊娠を目指すステップダウンを目標とできると、米国泌尿器科学会総会で報告されました。そこで日本でも高度生殖医療施設とは独立してかつ協力していく男性不妊診療施設の必要性が生じてましたが、こうした施設は当院を含めてまだ数えるほどしかありません。母親となる女性パートナーの幸せと安堵の表情だけではなく、父親となる男性パートナーの自信と誇りの表情を見られるのは男性不妊専門施設ならではと言えます。
これまで東日本を中心に国内外から10000人を超えるカップルの生殖医療に従事し、多くの方々と挙児の喜びを分かち合ってきました。当クリニックでは遠方にお住まいの方や時間の無い方でもストレスなくご相談いただけるようシステムを整えており、最新の設備と完成度の高い技術とともに、当院でならではのホスピタリティをもって、世界水準の男性不妊診療を仙台市で皆様に提供していきます。