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男性の癌治療と生殖医療

[2017.04.20]

 生殖適齢期の男性が罹患しうる悪性腫瘍の代表が精巣腫瘍と血液の癌である白血病です。精巣腫瘍と白血病は抗がん剤が有効で、現在では治癒しうる疾患です。特に精巣腫瘍は転移があってもほとんどが治癒可能です。ただし抗がん剤を一定量以上投与されると、不可逆性の造精機能障害が惹起され、無精子症になってしまいます。また抗がん剤投与後一定期間は精子のDNA損傷や染色体異常が出やすくなるため、治療開始前に精子凍結保存をしておくことが望まれます。しかし一般的にオンコロジスト(癌治療医)は生殖医療の知識に乏しく、治療開始前に精子凍結保存の説明が患者さんにされる割合はかなり低いのが現状です。したがって癌治療後に子供を望んだところまさかの無精子症が判明して初めて生殖医療専門医のもとを訪れることが一般的です。

 先日も非ホジキンリンパ腫と言う血液の癌のため抗がん剤を8クール投与された方のmicro TESEが実施され、精巣の極一部から運動精子を顕微鏡直視下に回収してバイアル10本に凍結保存するに至りました。手術中モニターに映し出された夫の精子を見て感情を抑えることができなかったのか、奥様の両目から涙が溢れ出ました。これまでも白血病のため、化学療法と放射線療法で癌細胞と造血細胞を完全にゼロにしてから姉の骨髄移植をして完全寛解に至った男性(染色体検査結果はドナーが姉のため女性核型の46,XX)からmicro/MD-TESEを実施して運動精子を回収できた方が2名おられます。このように抗がん剤や放射線で徹底的に治療された後でも、micro/MD- TESEで精巣の中をくまなく探せば、たまたま生き残っていた造精部位が見つかることがあります。

 精巣腫瘍の場合は白血病と異なり、発症前からもともと造精機能障害が存在することがしばしばあります。そのため精巣腫瘍の治療開始前に精子凍結保存をしようとしても、精子が極端に少なかったり無精子症だったりで、凍結保存ができないことがあります。その場合は精巣摘除の際に腫瘍の周りの部分に対してmicro/MD-TESEを行い、精子が回収されれば凍結保存することができます。onco TESEと言われている方法です。この術式では精巣摘出後の標本に対して精子検索が実施されるところが通常のmicro/MD-TESEと異なリます。

 癌治療を受けられる男性患者さんは、癌治療の主治医から生殖医療に関する情報が与えられることが少ない現状から、妊妖性の保存や可能性について知識を得ておくことが重要です。男性不妊専門医としてこれからもこうした情報発信に努めていきます。

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