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ここまで大きい精索静脈瘤に対する顕微鏡下低位結紮術に対する術者間の温度差

[2016.11.23]

 本邦でも普及しつつある精索静脈瘤に対する顕微鏡下低位結紮術ですが、ここまで術者間の温度差が激しい手術は泌尿器科の手術の中でも稀です。その理由は手術書なる教科書が無いにもかかわらず、精索内の脈管の解剖に個人差が大きく、一方で国内にこの手術を指導できるレベルの術者が極めて少なく、訓練医を指導するにも豊富な症例数をこなしている教育施設が極めて少ないことにあります。

 先日の日本生殖医学会総会では、動脈やリンパ管を温存しなくてもあまり臨床成績に大差ないのでないかという驚くべき意見が大手の生殖医療施設の医師から出て大変な議論となりました。確かに動脈やリンパ管を全て確実に残すことを目指さなければ、手術時間は15分くらいは早くなります。15分くらいといえば大したことはないと思われるかもしれませんが、民間医療施設にすれば15分間にかかる医療コストというのは相当なものです。したがってそれは経営効率を優先した発想ということになります。また、動脈やリンパ管を確実に温存できるようトレーニングされた泌尿器科医師が少ないことから、手術の普及のためにこの手術のハードルを下げようという発想も伺えます。しかし動脈やリンパ管を確実に残せなくても臨床成績に大差が無いという発想は建物の耐震構造を取らなくても、地震さえ起こらなければ普通に暮らす分には大差ないという発想と共通しています。

 ところで、熟練した指導医不在下で手術を受けて再発した場合、脈管の癒着のため再手術は極めて困難になります。したがって指導医の助手を長年経験してトレーニングを受けてから執刀すべきでしょう。当院では大学病院などから手術症例の紹介と同時に紹介先からの泌尿器科若手医師の見学を受け入れています。

 これまで手術を受けられた方々の多くから、自然妊娠したとご報告のお手紙や赤ちゃんのお写真を頂戴してきました。医師たるものは患者さんの利益となることを最優先して診療を進めていかなくてはなりません。研究、教育、経営のためという大義名分でその価値観が損なわれれば、”自身の能力と判断に従って、患者に利すると思う治療法を選択し、害と知る治療法を決して選択しない。”とするヒポクラテスの誓いに反することになります。

 精索静脈瘤に対する顕微鏡下低位結紮術は古くて新しい治療法です。仙台から2008年に論文発表した非閉塞性無精子症に対するmicro TESEによる妊娠率が現在では世界標準となったように、仙台での顕微鏡下低位結紮術後の自然妊娠率が世界標準となるよう、日々の診療と啓発に取り組んでいきます。

 

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