男性の年齢と生殖能力
長年の間不妊の原因は全て女性にあるとされてきました。しかし現在では不妊カップルの約半分の男性に不妊原因があることが判明しています。そして男性の不妊原因の代表格が精索静脈瘤ですが、もう一つ重要な原因が明らかになってきました。それは男性自身の加齢です。もともと老齢医学(geriatrics)いう分野があり、老化は正常老化と病的老化に分類されますが、実は男性の生殖能力にも正常老化と病的老化が存在します。
これまで男性の加齢は不妊の原因にならないと思われてきました。この点については小生と放送作家の鈴木おさむ氏との公開シンポジウムでも話題となり、小生の講演でも取り上げたテーマの一つです。興味のある方は鈴木おさむ氏の2016年10月2日のブログをご覧ください。そして男性の加齢による生殖能力へのインパクトは不妊カップルで特に顕著であり、精液検査が正常値であっても存在することが動物実験で証明されました。その実態は精子のDNA損傷が増えてくることで、不妊カップルの男性の精子は精液検査が正常値であっても胚発生能力が低いことがデータとして示されました。
今日までに明らかになっている加齢が男性の生殖能力への影響を整理すると以下となります。
1:男性ホルモン値は40歳以降1年ごとに1%ずつ低下する。
2:精子濃度は変化しない。
3:精子運動率が次第に低下する。
4:精液量が次第に低下する。
5:精子DNA損傷が40歳以降1年ごとに3%ずつ増加する。
6:精子染色体異常率が増加する。
7:精子の遺伝子突然変異が増加し、児の疾患の発生の原因になる。
8:自然流産、早産、死産の確率が男性が50歳以上でそれ以下に対して倍増する。
9:児の先天性疾患の罹患率や精神疾患、発達障害、自閉症の発症率が増加する。
男性に不妊原因があること自体一般に知られていない状況で、精液検査値が正常であっても男性側の加齢がリスクを抱えていることを一般社会に啓蒙することは極めて困難です。正常老化による精子の劣化はどうにもなりませんが、病的老化を起こさないように生活指導や治療をしていくことが極めて重要になってきます。そのためには女性側の治療のみひたすら進めていく不妊治療の現状を改めていかなくてはいけません。さらに言えば男性不妊外来と称して精液検査と簡単なスクリーニングしか実施されていない一般的な男性不妊診療の実態もなんとかしなくてはいけません。