無精子症とは?
術後の後遺症と精子の見落としをできるだけ少なくするためにmicrodissection TESE(MD-TESE)を受ける前にFNA Mappingで精子の存在有無と精子が作られている場所を確認しておくことを勧めます。( FNA Mappingについては別途詳細な説明がありますのでご覧ください。)
無精子症とは、射精された精液中に精子がまったく存在しない状態のことを指します。これは男性不妊の原因として重要であり、精子の通り道の異常によるものか、精子そのものが作られていないかによって、大きく二つのタイプに分かれます。
一見するとどちらのタイプかは分かりにくいため、的確な診断には、泌尿器科専門医であり、かつ生殖医療の専門的な知識を持つ医師の診察と検査が欠かせません。
閉塞性無精子症について
閉塞性無精子症とは、精子は精巣(睾丸)で作られているにも関わらず、精管などの通り道のどこかが詰まっているために、射精時に精子が精液中に出てこない状態です。
たとえば、先天的に精管が欠損している場合や、過去の手術、感染症などが原因で閉塞してしまった場合が含まれます。中には、精液自体が射出されない「無精液症」も、広義でこのグループに分類されることもあります。
このタイプの無精子症では、精巣内でしっかりと精子が作られていることが多いため、適切な手術によって精子を採取し、顕微授精に用いることが可能です。
非閉塞性無精子症について
非閉塞性無精子症は、精巣そのものが精子をうまく作れていない状態を指します。原因には以下のようなものがあります。
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染色体異常(例:クラインフェルター症候群)
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遺伝子異常
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ムンプス(おたふく風邪)による精巣炎
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放射線治療や抗がん剤治療の後遺症
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明らかな原因が特定できない場合もあります
このタイプの方でも、精巣で局所的に精子が造っている場合があり、それを顕微鏡手術で探し出して採取することができます。特に当院では、高い専門性と実績を持つチームが精子採取手術(microdissection TESE)を担当しています。
顕微鏡下精巣精子採取術(microdissection TESE)について
精巣内の限られた部分に精子が存在する可能性がある非閉塞性無精子症では、肉眼では判断が難しいため、手術用顕微鏡を使用して精子を作っている組織(精細管)を特定し、精子を選択的に採取する手術が必要です。
当院では、局所麻酔による日帰り手術で対応しており、術中の痛みも最小限に抑えています。精巣の血管やホルモン産生組織をできるだけ傷つけないように行うため、術後の精巣萎縮や男性更年期のリスクを減らすことが可能です。
精子が採取できれば凍結保存し、奥様が通われている婦人科施設にドライシッパーという専用容器で送ることも可能です。
当院が採用する「FNA Mapping」による手術精度の向上
当院では、microdissection TESEに先立ってFNA Mapping(精巣内局所精子存在マッピング)を行う方針をとっています。
FNA Mappingでは、細い針で精巣の複数の部位を事前に調べ、どこに精子が存在する可能性があるかを把握します。これにより、より確実かつ効率的に精子を採取することが可能になり、精巣への侵襲(ダメージ)も最小限に抑えることができます。
この手法の導入以降、当院での精子回収率は大きく向上し、特にセルトリオンリー症候群などの重度症例でも実績があります。
2004年から2017年までのFNA Mapping導入前のmicro TESEによる精子回収率を主な各因子別に過去実績で列挙しますと以下となります。FNA Mappingが積極的に導入された2018年以降では特にセルトリオンリー症候群において明らかな精子回収率の改善を認めています。
閉塞性無精子症 |
100% |
非閉塞性無精子症(クラインフェルター症候群を除く) |
37% |
クラインフェルター症候群(37歳以下) |
47% |
クラインフェルター症候群(38歳以上) |
11% |
セルトリセルオンリー症候群 |
24% |
分化停止 |
56% |
精子低形成 |
100% |
停留精巣固定術後 |
67% |
過去の精液中に精子が存在した場合 |
90% |
無精子症の手術後の生活について
術後は以下の点にご注意ください。
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翌日から軽作業であれば仕事復帰可能です
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激しい運動は1週間控えてください
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シャワーは当日から可能ですが、入浴は1週間控えてください
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飲酒も1週間程度控えてください
抜糸は不要で、防水シールでの創部管理を行いますので、遠方からの通院も最小限に抑えられます。
無精子症の治療成績
当院で精子を回収できた方のうち、顕微授精によって妊娠・出産に至ったケースは以下の通りです。
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閉塞性無精子症:妊娠率 72%、生児獲得率 89%
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非閉塞性無精子症:妊娠率 67%、生児獲得率 84%
これは、凍結融解した精子でも十分な受精能力と出生に至る力を持っていることを示しています。
無精子症治療についてのよくある質問
Q1. 採卵と同日にmicrodissection TESEを行う必要はありますか?
A1. 特殊なケースを除き、同時実施は推奨していません。精子回収が不確実な非閉塞性無精子症では、卵子を無駄にするリスクがあるためです。当院では、精子を凍結してから顕微授精を行う方法を推奨しています。
Q2. 泌尿器科クリニックでも助成金の利用は可能ですか?
A2. はい、可能です。当院は特定不妊治療支援事業の認定施設であり、泌尿器科施設として助成金の対象となる書類作成ができます。
Q3. microdissection TESEで精子が見つからなかった場合、次にすべきことは?
A3. 当院では、精子回収に失敗した方にFNA Mappingを実施し、そこから再度の手術で精子を回収できた実績があります。術前評価により、最適なアプローチを選択することが重要です。
院長より
無精子症の治療は、専門性が高く、豊富な経験と訓練を積んだ男性不妊専門医が担当することがとても重要です。当院では、泌尿器科専門医・生殖医療専門医である私が、週6日常勤体制で診療にあたっており、これは東北6県でも当院のみの特徴です。頻繁な通院が不要となるよう、遠方からお越しの方にも安心して治療を受けていただける環境を整えています。
また、できるだけ奥様の年齢が若いうちに治療を開始されることが、安全な妊娠・出産への近道となります。当院では手術枠を確保し、手術待ち期間を短縮できるよう努めております。
microdissection TESEは、顕微鏡手術の十分なトレーニングを経た泌尿器科医師が担当すべき手術です。しかし国内では、海外とは異なり、十分なトレーニングを受けていない術者、特に婦人科医師による手術が行われ、術後の男性ホルモン低下や不十分なフォローアップが問題となっています。実際、手術中や術後の痛みの程度も、担当する医師の技量によって大きく異なります。
最近では、microdissection TESEで精子が見つからなかった方に対し、FNA Mappingという術式で精子が確認され、救済できた事例が注目されています。FNA Mappingは精巣内の精子が作られている部位を正確に特定する、いわばGPSのような役割を果たします。この方法を取り入れることで、精子が全く造られていない方は無駄に精巣を切開することを避け、精子が存在する方も不要な切開を減らすことができ、手術の負担を大幅に軽減できます。
当院では、Dr. Turekの監修のもと、このFNA Mappingを実施しています。不適切なTESEやmicrodissection TESEにより、男性ホルモンの低下や更年期症状で苦しむ方が増えている現状も踏まえ、無精子症や精子が極めて少ないと診断された場合には、まずは安易に手術に進まず、ぜひ当院にご相談ください。あなたの体を守りつつ、最適な治療をご提案いたします。
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FNA Mappingとmicrodissection TESEの特徴とは?へのリンク⇨ https://kanto-clinic.jp/what_FNA_Mapping