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不妊カップルの男性は精液所見正常でも不妊の可能性あり!

 2016年11月4日に日本生殖医学会総会で重要な研究結果の報告がなされました。不妊カップルの男性は精液検査が正常値であってもマウスの卵子に顕微授精をした結果、子供が複数いるカップルに比較して胚発生が不良であることが示されました。特に男性の年齢が35歳以上になるとその差は明確になってくるそうです。マウスの卵にヒトの精子を顕微授精すると聞いてびっくりされるかもしれませんが、ハイブリッドを作成するわけではありません。胚盤胞まではマウスもヒトも同じ遺伝子を用いて発生しますが、その後の発生は進みません。そのため精子の胚発生能を評価する実験手法として確立しています。

 したがって精液検査が正常値だったからと女性がひたすら顕微授精をしていくのは非効率的です。日本産婦人科学会が2013年全国の統計を公表した結果によると、顕微授精の採卵あたりの妊娠率は5.7%となっており、胚移植あたりの妊娠率(平均値で22.4%)と大きく隔たりがあります。これは顕微授精をしても胚発生不良のため胚移植に至らない採卵周期が多いことを示しています。

 高齢女性の卵子の質の低下についてはよく知られていますが、それは卵子の遺伝子ではなく細胞質が原因と考えられています。なぜならば出生以降において卵子は受精するまで卵巣の中で細胞分裂を一切しないからです。一方で精子は思春期以降絶え間なく細胞分裂をしています。特に減数分裂という特有の細胞分裂の際には遺伝子を父方染色体と母方染色体の間で交換をするため、DNAはあちこちで分断されてその後修復されます。高齢男性ではこの修復が不十分でDNAの断片化が顕著になることが報告されています。一方で精巣にはストレスがかかった際にその影響を軽減するため、様々なストレスタンパクが発現することが知られています。しかし加齢とともにその機能が特に35歳以上の不妊カップルの男性では弱まっていることが予想されます。したがって精索静脈瘤、生活習慣、不妊治療のストレスなどでDNA損傷が多くなり、そのまま顕微授精してもなかなか結果が出ない原因となっている可能性があるのです。

 修復機能が劣化した状態での細胞分裂はそれ自体が遺伝子損傷を起こすリスクとなります。福島原発の事故による放射能汚染では大人にはあまり影響ないレベルでも子供に対する影響を危惧する考えが専門家から寄せられていましたが、それは大人と違って子供は細胞分裂が盛んであるからです。また放射能被爆の結果、悪性腫瘍の中でも血液のガンである白血病が起こりやすいとされるのは造血細胞は全身の中で細胞分裂が盛んであるからと考えられます。

 したがって特に35歳以上の男性は精液検査所見が正常であっても不妊治療開始の前に男性不妊専門医による精査と加療を勧めます。ストレスの代表格である精索静脈瘤は日帰り手術で根治できますし、生活習慣の是正とともにエビデンスが蓄積されつつある抗酸化療法を個人にカスタマイズして実施していきます。

 10月2日の放送作家鈴木おさむ氏と実施した公開シンポジウムで同氏に男性の年齢は不妊と関係あるかと聞かれました。そのご質問に対する回答は当日の同氏のブログに掲載されておりますのでご覧ください。今後多くの男性が自らの不妊治療の必要性に関心を持ってくれればと願っております。

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