精索静脈瘤とは?
精索静脈瘤は最も一般的な不妊原因にもかかわらず、治療の機会が得られにくい疾患です。
- 精巣周辺の陰嚢部に発達した静脈瘤(静脈の拡張したこぶ)を精索静脈瘤と言います。
- 精索静脈瘤は、一般男性の15%に認められ、乏精子症・精子運動率低下の少なくとも35%は精索静脈瘤が原因です。
- 無精子症の方でも手術による根治後射出精子が出現し、自然妊娠される方もおられます。(実例:以前務めていた病院のご自身が泌尿器科の先生は、結婚後無精子症が判明し、精索静脈瘤の手術を直ちに受けた結果、自然妊娠により3人の子供さんに恵まれました。)
- 精索静脈瘤は、次第に精巣機能を低下させることがあります。(実例:婦人科で受けた精液検査が正常という結果であったため、その後タイミング法2年実施して結局妊娠せず、人工授精にステップアップしたところ、精液所見が不良であることが判明し、人工授精を開始してから6ヶ月後についに無精子症となり、初めて泌尿器科に相談に来られ、精索静脈瘤が原因と診断されたため、低位結紮術で根治したところ、数ヶ月後の精液検査で射出精子がわずかに出現し始め、その数ヶ月後正常下限の半分以下の精子濃度で自然妊娠されました。)
- 二人目不妊の78%は精索静脈瘤が原因です。(実例:以前受診された施設で軽い精索静脈瘤のために手術適応と説明されず放置され、なかなか二人目ができなかった方が、低位結紮術を実施されたところ、半年たたないうちに自然妊娠されました。)
- 精索静脈瘤は精子DNAを損傷させ、精索静脈瘤手術は精子のDNA損傷を減らすことが知られています。(実例:都内の高度生殖医療施設で5回顕微授精実施するも胚発生不良で一度も妊娠されなかった方のパートナーが精索静脈瘤を低位結紮術で根治され、顕微授精を元の施設で実施したところ、良好胚盤胞が得られ、術後初回の採卵周期で無事妊娠されました。)
- 精索静脈瘤ができると精巣温度の上昇や血流障害を起こし、精液所見の悪化や精巣萎縮の原因になります。(実例:60代の3度目の結婚をされた方は最初の奥様との間には3人の子供さんに恵まれ、2度目の奥様との間には1人の子供さんに恵まれていましたが、3度目の結婚後にはほぼ無精子症となっており、立派な精索静脈瘤とともにビー玉ほどまで精巣が萎縮しておりました。)
- 米国生殖医療学会、米国泌尿器科学会のガイドラインでは不妊治療の最初に精索静脈瘤を治しておくことを勧めています。
精索静脈瘤を未治療のままでいると以下のようなデメリットがあります。
- 精索静脈瘤は自然治癒することはなく、次第に進行していくため、精巣のダメージが進むと、手術で回復しにくくなってきます。
- 精子DNA損傷のため、顕微授精をしても受精、着床、妊娠継続に不利になる可能性があります。
- 次第に精巣機能が悪化して男性ホルモンが低下すると、不妊のみならず将来更年期障害を起こす原因になりえます。
- お一人目が生殖補助医療で妊娠されてもお二人目でさらに高度な生殖補助医療が必要となる可能性があり、さらに不妊治療にかかる費用と時間の消費が大きくなります。
精索静脈瘤を治すと以下のようなメリットがあります。
- 不妊原因を取り除く(根治療法)ことにより、将来にわたってその効果を期待できます。
- 女性パートナーに原因が無ければ、女性側の治療が不要となり、かつ自然妊娠が可能になります。
- 現状で高度生殖医療が必要と説明された方でも、ステップダウンできる可能性があり、高度生殖医療を実施する場合でも妊娠率上昇と流産率低下をもたらします。
精索静脈瘤診断のための自己検診
精索静脈瘤は、男性不妊専門医(泌尿器科専門医かつ生殖医療専門医)が診察すれば確実に診断できますが、まずは下記を参考に自己検診をしてみてください。
- 起床してから陰嚢や会陰部に重苦しさや違和感が出てくることがある。
- 精巣(睾丸)の大きさや陰嚢のふくらみにどうやら左右差がありそうだ。
- 陰のうが常に柔らかく垂れ下がっていて、立ったりお腹に力を入れると陰嚢が何となく膨れてくる。皮膚ごしにミミズ腫れのようなものが見える或は触れる。
- 精液所見に異常所見が出やすい。
よくあるご質問
(質問)精液検査結果が正常なら手術をしなくても良いのではないでしょうか?
(答え) 精液検査結果が正常であることは必ずしも妊孕性を保証するわけではありません。米国のテキストには精液検査は妊孕性判定のためのテストではないと明記されています。精索静脈瘤は自然治癒せず次第に進行するものと解釈されますが、その一方で精索静脈瘤から与えられるストレスに対する抵抗力や代償能力は年齢とともに次第に低下していくと予想されます。そのため2人目不妊の代表的原因となっています。したがって女性パートナーの情報、問診、理学所見などを総合的に判断して手術適応を決める必要があります。
(質問)女性年齢が高く顕微授精を勧められていますが、それでも精索静脈瘤は治した方が良いのでしょうか?
(答え)体外受精を実施する産婦人科のホームページではいまだに精索静脈瘤の手術意義について結論が得られていないような記載が時折見受けられます。一方で過去10年間に精索静脈瘤の根治の必要性を示すエビデンスは十分に蓄積されてきており、勉強不足か体外受精を優先させたい思惑が背景にあるように見受けられます。精索静脈瘤は精子DNA損傷から受精後の胚発生不良の原因となるため、たとえ体外受精を実施する場合でも、あらかじめ根治しておくことが望まれます。精索静脈瘤を放置した状態での顕微授精の結果は著しく不良であることが報告されています。女性年齢が高い場合はできるだけ早い妊娠を目指す必要がありますが、そのために顕微授精を優先させるのではなく、まずは専門施設での外来手術で精索静脈瘤を根治しておくことが望まれます。そのため男性側の手術待機期間の短縮が重要で、当院では手術を希望されたらできるだけ1ヶ月以上お待たせしないことを目標にしております(男性側の手術のため女性が1排卵周期を失わないよう配慮しています)。
(質問)非閉塞性無精子症と診断されていますが、精索静脈瘤があった場合は治しておいた方が良いのでしょうか?
(答え)無精子症であっても精索静脈瘤根治後射出精子が出現して自然妊娠される方がおられます。射出精子が得られなくても顕微鏡下精巣精子採取術による精子回収率の改善や妊娠率の改善の報告もあります。全例にメリットがあるとは思われませんが、かつて射出精子の存在が確認されていた方や妊娠歴がある方ではより検討の価値が高いと言えます。
(質問)精索静脈瘤の診断を受け、腹腔鏡手術を勧められましたが、顕微鏡手術である低位結紮術でなくて良いのでしょうか?
(答え)結論から言えば精索静脈瘤に対する腹腔鏡手術のメリットは患者さんにはありません。腹腔鏡手術では入院不可欠、全身麻酔、絶食、尿道留置カテーテル必須となり、侵襲(体に対する負担)や手術リスク、材料費コストはより高くなり、その一方で腹腔鏡手術では動脈温存が困難であるにも拘らずしばしば試みられることによる再発例が散見され、リンパ管が犠牲になることによる陰嚢水腫の発生率が高くなります。そして腹腔鏡手術は高位結紮であるため、静脈瘤のため病的に発達した外精静脈の処理ができないために再発をきたすことがありますが、顕微鏡下低位結紮術ではこうした静脈を直視下に処理できるため、より根治性が高まります。また一般的には腹腔鏡手術では動脈温存が困難であるため、精巣動脈がすでに犠牲になっていることが多く、腹腔鏡手術再発症例に低位結紮術を改めて実施するのでは折角の顕微鏡手術の意義は半減します。左右両側の精索静脈瘤に対しては顕微鏡下低位結紮術に比べて腹腔鏡手術の方がメリットがあるかのような説明を他院で受けられた方がおられますが、それは完成度の高い顕微鏡下低位結紮術の術者が施設内にいないか、腹腔鏡手術で左右となると片方分の器材の消耗品で突出して高い診療報酬が2倍となるため、患者さんのメリットより病院経営を優先したい思惑が背後にあるためと考えられます。
(質問)他施設で精索静脈瘤低位結紮術を勧められましたが、全身麻酔か下半身麻酔で入院が必要と言われました。局所麻酔で日帰りで手術をする場合、何かデメリットやリスクはあるのでしょうか?
(答え)精索静脈瘤低位結紮術では高位結紮術と異なり、全身麻酔、下半身麻酔及び入院も本来不要ですが、トレーニング中の術者が行う場合は必要となります。保険診療で行っている施設では手術点数単独では採算に合わないため、全身麻酔、下半身麻酔及び入院による点数が加算されていることが一般的です。
(質問)体外受精を実施する施設では顕微鏡手術である低位結紮術が日帰りでありながら保険診療で行われています。どうしてでしょうか?
(答え)不妊治療における精索静脈瘤の診断と手術適応は医師の裁量で決められる要素が大きく、また術者の技術水準と手術方法が非常にまちまちです。体外受精施設で保険診療で実施される日帰り精索静脈瘤低位結紮術は1時間に満たない手術時間で血管群をまとめて結紮する時間短縮法と呼ばれる方法であったり、あるいは修学中の泌尿器科医師が体外受精施設に誘引される症例で手術経験を積むために実施される手術であることが多いように見受けられます。完成度の高い顕微鏡手術を行う熟練した泌尿器科医師が体外受精施設に出向して手術をしたり、体外受精施設(婦人科)に雇用されて手術をすることは通常ありません。精索静脈瘤低位結紮術は初回の手術で合併症なく根治させることが肝要で、再手術は癒着によるリスクを伴うため極力避けなくてはいけません。一方で時間短縮法では一部のリンパ管を気付かずに結紮してしまうことにより術後しばらく経ってから陰嚢水腫を発生させたり、一部の動脈を気付かずに結紮してしまうことにより術後しばらくの間は自然妊娠しにくくなる可能性があります。保険診療による日帰り精索静脈瘤手術の赤字部分はそれ以上に数多く実施されていることになる体外受精による収益で補填されることになります。このような現象が見られる背景には、日本は体外受精施設数が世界一多く(米国の1.5倍)、人口当たりの体外受精施設数はさらに突出して世界一多く(米国の3.6倍)、そのため競合する体外受精施設が自院の優位性を前面に出すために男性不妊手術を取り入れていることをアピールせざるを得ない日本独特の事情があるように見受けられます。
精索静脈瘤に対する顕微鏡下低位結紮術とは?
精索静脈瘤の根治を希望される場合は顕微鏡手術である低位結紮術を行います。切開する部位は陰茎の根元上部から足の付け根に向かって数センチ離れたあたりで、切開の長さは2cmぐらいです。皮膚のすぐ下に精索があり、そこを顕微鏡で見ながら手術します。手術時間はトータルで1時間程度です。体に対する負担や侵襲という観点からは皮膚にできたおできを取る手術と同程度です。術後はすぐに日常生活に復帰でき、ほとんどの仕事も翌日には復帰できます。麻酔法は局所麻酔単独で会話をしながらできます。当院では中高校生の年代から局所麻酔で実施してます。
この治療法は従来の高位結紮術(腹腔鏡手術を含む)に比べて再発率が低く、動脈を確実に温存できるため精巣梗塞のリスクが小さく、さらにリンパ管を確実に温存できるため陰嚢水腫の発生リスクも低く、また手術侵襲(体に対する負担やリスク)も少なくて済みますが、顕微鏡手術の高度な技術が要求されるにもかかわらず、優れた指導者の元で十分な助手の経験を積んでから執刀し始める術者が日本では少数となっています。そして症例経験数も多くてもわずか100例前後で独り立ちしてしまうことが一般的です。
顕微鏡下低位結紮術が開発された米国においては、術者が顕微鏡手術を開始するにあたっては顕微鏡手術のトレーニングコースを経てから執刀を開始しますが、日本にはそうしたトレーニングコースは存在しません。また日本の専門医制度では顕微鏡手術技術認定制度が無いため、術者のレベルは必ずしも一定ではありません。男性不妊専門医としてベストドクターと称されるDr. TurekがCEOを務めるThe Turek Clinicでは、顕微鏡下低位結紮術の完治率と術後自然妊娠率が高いため、体外受精を実施する高度生殖医療とは独立した施設で手術が行われています。Dr. Turekによる顕微鏡下低位結紮術は保険は一切適用されず一側につき$9000(約99万円)となっていますが、手術のバリューは高く、全米のみならず海外からも患者さんが受診します。
日本では精索静脈瘤手術に保険点数がつきますが、手術点数単独では採算が取れません。そのため入院設備のある病院でこの手術が行われる場合は、技術的に完成度が高ければ本来不要となる全身麻酔/脊椎麻酔の採用や数日の入院が強いられることになります。そのため本来不要な気管内挿管や尿道カテーテル挿入などがしばしば行われます。一方で治療単価の大きい体外受精を診療の主軸とする高度生殖医療施設では保険診療と銘打って日帰りで顕微鏡下低位結紮術を行なうところも出現してきました。しかし術者が技術的に未熟な場合は精索を剥離して持ち上げる際に局所麻酔のみでは疼痛がコントロールできず、鎮静剤(眠くなる薬)や静脈麻酔(意識を無くす薬)を併用することになり、こうした鎮静剤や静脈麻酔の使用は術中呼吸抑制を起こす恐れがあるため注意が必要です。特に婦人科で汎用されているプロポフォール(デュプリパン)という薬は、使い方によっては呼吸停止を起こすリスクがあり、マイケルジャクソンの死亡事故や未承認の小児に使用した医療事故などで知られるようになりました。したがって当院では手術にあたり鎮静剤は一切使用しません。使用する局所麻酔薬の総量も的確な麻酔手技及び解剖を熟知した正確で迅速な手術手技により極めて少ない量で済んでいます。
精索静脈瘤術後の精液所見の改善はこれまでの報告によれば51%~78%で改善します。精液検査で明らかな改善が無くても妊娠してくるケースも珍しくありません。泌尿器科顕微鏡手術で著名なGoldstein教授らの報告によると女性不妊要因を除くと自然妊娠率は1年目で43%、2年目で69%です。自然妊娠を期待するには女性同様男性側も若いうちに手術を受けることが望ましく、妊娠までの期間も必要になります。しかし女性年齢が比較的高くても術後自然妊娠してくるケースもあり、また複数の動脈を全て温存することにより、低位結紮術後は従来の報告より比較的早い時期に自然妊娠してくるケースが見受けられるようになっています。
また人工授精・体外受精・顕微授精の成績に精索静脈瘤手術が貢献することがこれまで数多く報告されています。一方で精索静脈瘤を放置して顕微授精を実施した場合、その成績は極めて不良であることも判明しています。体外受精や顕微授精をする場合でも、できるだけ精子のDNA損傷を減らしておくことが望ましく、最初に精索静脈瘤の根治をしておくことが勧められます。精子DNA損傷の観点からは精索静脈瘤術後2ヶ月から体外受精(顕微受精を含む)が可能になり、女性年齢が比較的高い場合は体外受精等と同時に進めることもあります。 男性不妊の第一人者であるTurek教授らの集計では夫が精索静脈瘤を有する場合、米国で1人妊娠出産までにかかるトータルのコストは、精索静脈瘤を放置したままで実施された体外受精(顕微授精を含む)の場合は$89,091(約980万円)、精索静脈瘤手術単独の場合は$13863(約152万円)、精索静脈瘤手術後に体外受精を実施した場合は$44562(約490万円)、精索静脈瘤を放置して人工授精単独で治療を進めた場合は$49757(約547万円)となっています。参考までに米国での体外受精1治療周期のコストは平均で$11001(約121万円)、人工授精1治療周期のコストは平均で$850(約9万円)となっています。日本では正確な検討は行われていませんが、同様の比率でコスト差が生じていることが予測されます。
Dr. Turekの精索静脈瘤に対する低位結紮術の年間執刀数は年間100~150件と公表されており、手術実績数の少ない施設で手術を受けた場合の精索静脈瘤再発率の高さに警鐘を鳴らしております。低位結紮術は高位結紮術と異なり、精索静脈瘤による逆流を還流させるため病的に発達した外精静脈を処理でき、その結果低位結紮術の再発率は高位結紮術より少なくなっておりますが、一方で未熟な手術操作により精索内の細静脈を1本でも見逃してしまうといずれ発達して再発を起こすことになります。特に動脈壁に強固に癒着した静脈や動脈に蔓状に絡みついた静脈、さらには動脈壁内に発達した静脈を処理するには相当な技術が要求されます。Turek教授が指摘するように、本邦でもlow volume施設(年間実施数が20例以下の施設)で実施された低位結紮術後に再発例が散見されてます。低位結紮術後に再発をきたした場合は、精索内の癒着が必発であるため、再手術を実施するのは極めて困難で、無理に行うと動脈やリンパ管の損傷リスクが高くなります。したがって精索静脈瘤低位結紮術を受ける際には当術式のhigh volume施設(年間実施数が100例以上)で受けられることを勧めます。
過去10年間で実施した顕微鏡下低位結紮術の再発率(非根治率)及び術後陰嚢水腫発生率
再発率(非根治率)0.087%(1/1137) 2018年5月現在 *(3~39%)
陰嚢水腫発生率 0% (0/1137) 2018 年5月現在 *(9~16%)
手術を受けられた方の最終妊娠率 77.8%(28/36) (2008年顕微鏡下低位結紮術を受けられた39名中追跡調査できた36名中28名が妊娠成立)
*はCampbell's Urology(最も権威のある泌尿器科の教科書)に掲載されている一般的な低位結紮術の統計値
2018年4月に顕微鏡下精索静脈瘤低位結紮術が保険適応となり、新規に手術を開始するところも出てきました。しかし顕微鏡下精索静脈瘤低位結紮術を受けられる場合の注意点として以下の項目に該当する医療機関は避けていただいた方が無難でしょう。当院で実施している手術方法は下記の図に示すとおり一切の妥協を許さない術式であり、東北大学病院で執刀を始めた2004年から今日まで一貫しています。そしてこうした術式に対して差別化した命名をすることはなく、本来は全ての術者が行うべき標準術式であると考えています。
1:保険診療で日帰りで手術を行う施設
顕微鏡下低位結紮術を保険診療で日帰りで行うとほぼ赤字となるため、それを民間医療施設であえて行うということは表向きにならない理由があることを意味します。こうした手術は主に体外受精を数多く実施する施設で行われています。そして一般的にまとめて血管群を処理する粗雑な時間短縮手術が行われるか、あるいは十分な指導のもと長年の助手の経験を積むことなく自己の経験のみで手術を覚えようとする修学中の医師による不適切な手技により、再発や陰嚢水腫などの合併症の発生率を高めている可能性が危惧されます。また他施設で手術を受けられた方で精管切断や精巣梗塞を経験された方がおられましたが、稀な合併症とは言え、本来は避けられた合併症と言えます。
2:手術時間の短さを強調する施設
精索静脈瘤手術の成否は患者さんには直ちにはわかりません。傍目にはわからない細部まで手抜きをしないで顕微鏡下低位結紮術手術を行うにはいかに熟練していても1時間は最低必要です。それを短時間で済ますということはそれだけ細かいところは目を瞑るということであり、顕微鏡手術の最も大事なメリットをないがしろにしていながら顕微鏡加算点数での保険診療で手術を行うとなれば時間当たりの治療単価を上げるためであるということになります。
3:手術実施数が年間20例に満たない施設
手術実施数が年間20例に満たない施設では顕微鏡手術に熟練した術者がおらず、修学中の術者が手術を行う場合は手術時間は一般的に長くなるため、局所麻酔ではできず全身麻酔で手術が行われます。しかし全身麻酔の診療報酬は手術時間が長くなればなるほど上がる仕組みになっており、患者さんにとってデメリットとなることが病院の収益アップにつながるという矛盾点となっています。一般的に全身麻酔、2泊3日で顕微鏡下低位結紮術を行った場合は総額37万円(保険診療で自己負担3割で約11万円)となり、医療費の高騰につながります。
4:私費診療で平均的な治療費より明らかに高額な料金を設定している施設
日本では米国と異なり、高額な治療費だから高い技術が提供されるというわけではありません。医師の技量を客観的に評価することは難しく、料金を高く設定している施設は集患のため広告や検索サイトのSEO対策に資金を注いでおり、その分手術を受けられる方にとって重要な要素であるべき、スタッフの教育や安全性確保、高い品質の手術物品などの表に見えにくい価値のために資金投入をしていない傾向があります。Googleで広告と表示される医療施設は多大な広告費を投入して集患に努めており、その費用は結局は手術費用に転嫁されます。当院では広告や検索サイトのSEO対策には一円も費やしておりません。
5:局所麻酔単独ではなく、静脈麻酔を追加したり、脊椎麻酔で手術している施設
局所麻酔は最も安全性に優れており、局所麻酔のみで手術を無痛で終了させられます。したがって静脈麻酔、脊椎麻酔を併用するのは手術手技に未熟さがあることを示唆しています。静脈麻酔を併用して保険診療で日帰りで行う場合は全身麻酔の点数を不正に加算して診療単価を上げるためである可能性があります。
当院では国内および米国での顕微鏡手術のトレーニングと十分な助手と執刀の経験を積んだ医師のみが手術を担当します。また外来手術を安全に行うために医師だけではなく十二分な経験とトレーニングを受けた生殖医学会認定コーディネーターによる術前指導を丁寧に行っています。当院で実施する手術につきましては保険適応外とさせていただいておりますので、あらかじめご了承ください。また小児の手術等で全身麻酔と入院が必要となる場合は保険診療で手術ができる施設にて手術を実施しております。尚、顕微鏡下低位結紮術を正確にできる術者を育成するため、これまで各大学病院、基幹病院より多数の医師の見学を受け入れており、小児の手術においては宮城県立こども病院の依頼を受け、過去の手術ビデオから教育DVDライブラリーを無償で作成して提供しています。精索静脈瘤の手術効果を得るには的確な手術適応判断と正確な手術手技が必須です。