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白血病や悪性リンパ腫治療後無精子症に対するmicro TESEの有効性

[2017.11.24]

 先週下関で行われました第62回日本生殖医学会総会において、白血病及び悪性リンパ腫治療後の無精子症に対してmicro TESEを実施した結果を報告致しました。これまで悪性疾患に対する抗がん剤や放射線治療後の無精子症に対する治療結果の報告としては、山口大学の白石晃司先生、獨協医科大学越谷病院の慎武先生を筆頭とする英文論文が2つありました。これらの報告によれば白血病(急性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病)及び悪性リンパ腫(ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫)治療後無精子症の精子回収率は大変厳しいものとなってました。そのためこうした患者さんの治療はかなり厳しいという見方が一般的でした。micro TESEを始めたその昔、小生も血液悪性疾患の患者さんのmicro TESEを経験したことがありましたが、その時は精子は見つけられず、やはりとても厳しいという認識でした。

 しかしこの度の白血病の2症例は、大量抗がん剤治療(最も精巣に悪影響をもたらすとされるシクロフォスファミド総量8000mg)と全身放射線照射後に骨髄移植を実施した症例と、小児の時に化学療法と全脳放射線照射(18Gy)後に再発をきたして大量化学療法と全身放射線照射(12Gy)後に骨髄移植を実施した症例でした。お二人とも姉から骨髄提供を受けているため、染色体検査では女性核型の46, XXでした。その他悪性リンパ腫の方は転移のあるステージⅢBのため通常6クールの抗がん剤が8クール実施されており、シクロフォスファミド総量は6000mgにもなっておりました。これら3例いずれもが完全な無精子症でしたが、micro TESEの結果3人全員運動良好精子が回収されて凍結保存でき、仙台市にある連携高度生殖医療施設で顕微授精した結果、3人とも胚発生が順調で、良好胚盤胞が各々複数得られました。そして白血病のお一人は胚盤胞移植により妊娠されて安定期に入り、他のお二人もこれから胚移植の予定となっております。

 白血病の患者さんたちの当時の治療記録は10年から20年も前のもので取り寄せが大変でした。妊娠された白血病の方が治療された山形大学の現在の血液内科教授で小生の東北大学時代の同級生の石澤賢一先生も大変驚かれ、またご自身が当院で手術を受けられた血液内科の専門医の先生にお伺いしたところ、こうした成功例は未だ聞いたことがないということでした。白血病骨髄移植後の無精子症に対するmicro TESE後の妊娠の報告は論文ベースでも学会発表でもこれまでほとんどありません。そのため学会会場からは驚きの声とともに活発な質問が寄せられ、中でもmicro TESEを本邦で多数手がけているリプロダクションクリニック大阪の石川智基先生からは長時間にわたり多数の質問をいただきました。

 今回の成功は少数精鋭のプロフェッショナルでチームワークした結果でした。大病院や有名な施設でなくても、職人として磨かれた技術を駆使すれば、どんな難症例であっても結果を出せうるということは、全国の不妊治療施設に勇気とモーチベーションを与えることができたのではないかと思います。そしていずれは日本国内どこにお住いの患者さんであっても、こうした専門的な治療のために、遠方まで行かなくても結果を出せる時代が来れば理想的と思います。

 学会後は当院で男性不妊の手術を勉強したいという若い先生方と食事を楽しみました。来年度からこうした先生方のトレーニングとともに手術枠の拡大を目指しており、需要が増している男性不妊顕微鏡手術の待機期間を短くするため、尽力していきたいと思います。

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